水温はごく微妙に上がりつつあり16度。透視度は5m前後。
今日は深い所には行っていないので、綺麗な水がまだあるのかどうかは、わからない。
浅瀬で出会いを捜す。
5月18日
赤沢
晴れ
気温21.5度
北北東の風2m
水温15~16度
透視度5m前後
岩陰の奥にある白っぽい物が、視界の隅を通り過ぎる。
なんか光沢があったような雰囲気がして、脳内の怪しい物センサーが作動した。センサーの反応には従わないといけない、やや通り過ぎたけど、もう一度覗きこむ。
ほほう、ビンゴ。これはナヌカザメの卵だ。
僕の怪しい物センサーは正常に作動しているようだ。
(2011年2月:ナヌカザメ)サメの卵はとっても特徴的だ。
まず、卵ひとつが非常に大きい。
一粒が1ミリにも満たないのなんて普通。という魚類の世界で、一粒が10センチを超えるドデカイ卵を産むのだから、まさにケタ違いだ。
孵化するまでにかかる日数もケタ違い。
産みつけられてから数か月、1年近くも卵のままで過ごしてから孵化するというのだから驚きだ。人間は十月十日というけど、同じレベルでじっと卵の中で過ごす。
そして形が摩訶不思議。
卵といえば丸。という概念は見事になく。まるで生物の卵とは思えないなデザインをしている。
おもちゃのドリルとしか思えないこいつはネコザメの卵。この中で1匹のネコザメが育つ。
実際に海の中で、これを「ネコザメの卵なんだよ」と教えても、信じない人が2割ほどいるくらいだ。
産みたてはもっと深緑色をしていて、綺麗なドリルをしているのだけど、こいつは10ヶ月間も海の中にいてネコザメが孵化した後のものだからさすがにボロボロだ。海の中で10カ月と言うのは、象像以上に厳しい。
このドリル卵。割と浅瀬の岩礁地帯で見つかる事が多い。
大概の場合、先端を下にして岩と岩の隙間に挟まった状態で見つかるのだけど、ただ引っ張っても抜けるもんじゃない。そう、このドリルは簡単に抜けない為の仕組みらしい。
人間なら左回転させて…と、考えて抜く事ができるけど、自然の状態ではまず抜ける事は無いだろう。逆に、波に揺られてるうちに、どんどん固定されてゆく。
以前のブログで、「フナクイムシの生活がトンネルのシールド工法の元になった」って書いたけど、ドリルという道具のアイデアも生物に先を越されていたのかもしれない。
見つけたナヌカザメの卵はどこにも固定されておらず、ただ岩の隙間に落ちていただけだった。
それにしても綺麗な卵だ。産んでからそう何日も経ってないだろう。
セルロイドの様な硬ようで繊細な柔らかさのある感触と、怪しく滑らかな曲線は、とても魚の卵とは思えない。芸術作品だ。
昔の人はこれを、「人魚の財布」と言ったそうだ。
成長したナヌカザメは殻を破って孵化するのではなく、写真の左上の部分が開いて出口になるので、そこから海へと旅立ってゆく。
サメのいなくなった卵は、破られずに入れ物のまま残るので、そういうのが浜に打ち上げられたりしたんだろう。これを海辺で見つけて「人魚の財布だ」なんて、なかなかロマンのある言い方だ。
卵の上下には植物のツルのような物が4本出ていて。生み出されるとクルクルとソフトコーラルに絡まって固定されるようになってる。ツルはとても丈夫で、簡単には外れない。
この卵のツルは先端の細い所まで切れずに残っているので、最初から何にも絡めなかったのだろう。
中の卵はどうなってるのだろうかと思って、太陽に透かして見てみたけど、卵黄が確認出来ない。
それよりも、中から白い粉の様な物が出て来てモウモウとしてきた。
これは。死んで腐った中身だ。
この卵はもう生きてない…
卵黄に近い部分に亀裂があり、そこから中身が出て来ている。死因もこの亀裂だろう。
生きた中身があるのであれば、深い所に持って行って紐か何かで再固定してあげたんだけどな。そうすれば1年近くナヌカザメの成長を皆で楽しめたのに…
考えてみれば、こんなに綺麗でいて中身の入っていない財布なんて、そうそう落ちてるもんじゃない。
考えてみれば、こんなに綺麗でいて中身の入っていない財布なんて、そうそう落ちてるもんじゃない。
こりやぁ人魚が「持って帰れ」って言ってるんじゃないかな。
そうだな、折角だから大事に持って帰ることにしよう。
僕にとってはお金より価値がある財布だ。
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