今日は漁協のお仕事でのダイビング。ガイドではない。
僕がダイビングの仕事を始めた時は、海の中の環境調査やテレビの水中撮影をする会社の社員で、一般のダイバーと潜るという機会は無かった。休日はダイビングに行く、なんてことももちろんなかった。
当時、と言ってもそんな太古の話じゃなくて、田町にジュリアナ東京があったころの話。
同僚の男が仲良くなった女の子をダイビングに誘おうと思って、「ねぇ、今度僕と一緒に潜水しない?」と言ったら、「やだ“センスイ”って何のこと?、もしかしてダイビング?」と笑われてしまったと、超ガッカリ顔で話してきた事があった。
今なら大笑いしてやるところだけど、その当時は「ふむふむ、一般の人には“ダイビング”って言わないと笑われるのだな」と感心して聞いてた。
いや、上の「お仕事での“ダイビング”」って一発で書いたんで、ちゃんと矯正されてるんだなと思って。
でもやっぱり「足ヒレ」とは言うなぁ。
5月9日
赤沢
晴れ
気温23.0度
北北東の風3m
水温16~17度
透視度10m前後
ほんの3、4mでの作業なのだけど、出会ったのはでかいサメ。全長1.5mほどのドチザメだ。
「サメって怖くないですか?」とよく聞かれるのだけど、やみくもに人間に噛みついてくるサメなんてそうそういるもんじゃない。
サメの3D撮影をするためにミクロネシアに行った時は、迫力のある映像を撮る為に、水中でカツオの切り身を振り回しておびき寄せた。
それでも、カメラの前に来るのは1mないくらいの蹴り飛ばせそうなチビサメばかりで、大きな個体は見えるか見えないかの距離を保って近づいては来なかった。
あの有名なホオジロザメに出会う為に、僕の師匠はわざわざ南アフリカまで行ってた。
「これがサメの傷あとでさぁ。くらいのセリフを言ってみたいよな」。ってくらいにサメはなかなか襲ってこない。
ドチザメは海底のカニや魚類等を食べるサメでおとなしい、というか臆病なサメだ。ダイバーに会ったら普通はピューっと逃げてゆく。
このドチザメが逃げないのは、ぐっすりお休み中なのだ。
魚は瞼を閉じて寝ないので、起きてんのだか寝てんのだかは一見して良く分からないけど、こいつは爆睡モードで全然動かない。
ドチザメ達には気に入った寝場所というのがあるようで、実はこの岩と岩の間の丸石ゾーンで爆睡中なところをよく見かける。
山形の飛島と言う所には、その名も「サメ穴」という所があり、海底に開いた岩穴の奥が8畳くらいだったかな?、やや広いスペースになっていて、なんと一面ドチザメの「ドチザメ絨毯」になっているんだ。ドチザメマニアには聖地に違いない。
ふと気付くとこのドチザメ、お腹が妙に大きい。
どうもお腹に子供が入っているようだ。
もしかして粘りに粘れば、ドチザメの出産シーンというスクープを撮影することが出来るんじゃないかと、悪魔の様な考えが頭をよぎるが、ちゃんと本来の仕事を全うする。僕は真面目なダイバーだ。
ドチザメは卵を産まない。
産まないといっても子孫を繁栄しないということではなく、タマゴ、としては産まない。
生まれる時はすでに立派なドチザメの姿で生まれてくる、「卵胎生」という産み方をする魚だ。
産む子供の大きさは25センチくらい、多いと20匹ほどを出産するということだが、この「産む子供とその大きさ」の関係は反比例する傾向がある。
1ミリ以下の小さな卵は、わずか1cmの小さな生物にさえ喰われてしまう。孵化しても逃げて泳ぐ能力などない微細ない浮遊生物だ。悪魔の様な困難を乗り越えて身を守れる大人になるまでに、大半の兄弟が死んでゆくだろうから、何千万。何億と産まなければ、まず子孫は残せない。
生まれた時に大人の体であれば、世に出た直後でも敵から逃げられるし餌も探せる。生き残る確率は絶対的に高いけど、なにせ1匹が大きいから沢山は産めない。二桁がいいところだろう。
億の卵を産む生物の100万分の1だけど、それでも存在は消えない。
「それが自然淘汰の摂理なんだよ」と言ってしまえばそれまでなんだけど、魚類誕生5億年後の現在を見てるからそう思うのかもしれない。
人類の誕生が、もう数億年早かったら、摂理に反する様な訳のわからない生物にたくさん出会ってっるはずだ。
グニグニに絡まった様なアンモナイトに、どういう答えを出すのだろう?
イクチオサウルスが、かわいいイルカになってるんじゃないかな?
人気の漫画「テルマエ・ロマエ」みたいに、海底の小さな穴に吸い込まれて何億年か前の海にタイムスリップしたら、僕はどんなブログを書くだろうか。
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