2026年2月13日金曜日

『謎の成分・フクロノリ|水中映像(伊豆)』



フクロフノリ水中映像
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まんまと騙されてしまった。

 

いろんな本、いろんなメーカーのウェブサイト、AI、さらには国の機関さえも、そうだと言っていたのだから、そりゃあ信じる。
でも、ふと思った。
「フクロノリは、紅藻じゃないぞ」と。

 

海藻から抽出される「フノラン」という成分には、口腔衛生や高血圧の予防、コレステロール値の抑制、腸内環境の改善、さらには毛髪の保湿や艶出しなど、それはそれは様々な効果があるとされている。
有名なガムにもフノランは使われているのだが、食品の場合は成分表示をしなければならず、裏側にはこうある。
「フクロノリ抽出物(フノラン)」。

 

フノランという成分を調べると、「紅藻類(主にフクロフノリやマフノリ)から抽出される水溶性の多糖類(粘質多糖)。健康食品(歯の再石灰化促進、腸内環境改善)、化粧品(保湿・ヘアケア)、糊剤(伝統文化財の補修)など、多用途に利用される天然素材」とある。

 

そもそもフクロノリは紅藻類ではなく、褐藻類なのではあるが、それでも、例外としてフクロノリからもフノランは抽出されるのだと思っていた。
あの、ゴワゴワした袋状の、葉っぱらしくもなんともない醜い形。
春になると大量発生し、海底がまったく見えなくなる、その迷惑度。
良いことなんて一つもないようなフクロノリが、人類の役に立つなんて、すばらしいじゃないか。すごいぞフクロノリ!

 

醜いフクロノリだからこそ、そう思いたかったのかもしれない。

 

結局のところ、残念ながら
「褐藻であるフクロノリからは、フノランは抽出されない」

負けた感満載だ。
が、代わりと言ってはなんだが、「フコダイン」という成分は抽出されるそうだ。
褐藻類に含まれるフコダインは、免疫力の向上、抗がん作用、血糖値や血圧の抑制など、健康維持に効果があるという。

 

50代半ばになると、フノランよりもフコダインのほうが、ありがたいのではないかと思ったりもする。

 

フクロノリの大逆転かと思いきや、多量に含まれているのは、コンブやモズク、ワカメのメカブであって、フクロノリにはあまり含まれていないらしい。
負けた感は強い…

 

そもそも食品表示に「フノラン(フクロノリ抽出物)」と書かれるのは、昔からそうなっているので、今さら修正すると混乱するでしょ?、ということで、フクロノリからフノランが抽出されないと分かっていながら、あえて昔からの慣習を保って、ルールにしているということらしい。なんというか、「親切心」かな?…

 

ルールになっている以上、製造メーカーも「フクロノリ」と書かざるを得ないのだ。

 

たぶん、きっと、最初の誰かがフノランを申請したとき、
「フクロフノリ」と書くところを、「フクロノリ」と、フをひとつ書きそびれたのではないかと思う。

 

5歳児に「なんで?」と聞かれたら、
「フを一個、書き忘れたからぁ〜」
となって、再現ドラマが一本できそうだ。

 

それはそれで仕方のないことなのだが、
無いものを「ある」と思われ続けているフクロノリたちが、ちょっと可哀そうに思えてしまう。

2026年2月7日土曜日

『砂地のランナー・ヒラタブンブク|水中映像(伊豆)』


ヒラタブンブク
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ヒラタブンブクに出会うためには、幸運と覚悟が必要だ。

砂の中に棲んでいるヒラタブンブクに出会うには、平たく言えば「手で砂を掘る」しかない。
指の付け根あたりまで砂地に差し込み、ファサッと掘り返す。

……のだけど、その砂の中にヒラタブンブクが都合よく混ざっているわけではなく、たいていの場合、指先に激痛が走る。
「痛っ!」と手を引っ込めるのだが、慣れてくるとこれが「居たっ!」に変わり、そのあと、そっと砂をすくうようにするとヒラタブンブクが姿を現す。

広い海の砂地で、小さなヒラタブンブクに当たるのだから、これはもう幸運としか言いようがない。
そして、必ず痛い思いをすることが分かっている以上、覚悟も必要になる。

「スコップのようなもので掘ればいいのでは」と思われるかもしれないが、繊細な生き物は簡単に壊れてしまうため、道具は使わない。
実際、ちょっとした道具を試したことはある。しかし当たり前のことながら、何の感触もなく砂を掘るだけで、どうにもつまらない。結局、道具を使うことはなくなった。

素手の指は、砂に差し込む瞬間の感触がはっきりと伝わってくる。
サラサラの柔らかい砂や、硬く締まった泥混ざり、小石や貝殻の混ざり具合。いわば指先センサーのようなものだ。

ヒラタブンブクでなくても、砂からはさまざまな生き物が出てくる。
慌てて砂に戻ろうとする小さな二枚貝やヤドカリ、美味しそうな形をしたエビ、あるいはウミケムシ。
一見すると何もいない砂漠のように見える砂地は、実はその逆で、豊かなジャングルのような世界だ。
砂質によって棲む生き物ががらりと変わるところも、砂地の面白さの一つである。

――なんて、かっこつけた文章を並べてみたけれど、正直なところ、痛いからヒラタブンブクは見つけたくない。
それでも、なぜか当たる。
もしかすると、あの砂の下には、思っている以上にたくさん潜んでいるのかもしれない。

2026年2月1日日曜日

『通じない本名・イズカサゴ|水中映像(伊豆)』

イズカサゴの水中映像
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イズカサゴという魚がいる。
普段は水深50m〜数百mという深い場所に棲み、ダイバーが目にすることはほとんどない魚だ。
水温が冷たい時期になると、浅いところ――と言っても20mは超えるのだけど――へ上がってくることがあるようだ。

 

「何年ぶりに見たんだろう、イズカサゴ。しかし、まったく動かなかったねぇ」

そう言うと、一緒に潜っていたS君が、
「えー、そんなのいましたっけ?」
と返してきた。

30㎝はあろうかという魚だし、しっかり写真も撮っていたから見逃しているはずはないよなぁ……と思っていると、S君がカメラの画像を再生し始めた。

「あ、これこれ。これがイズカサゴだよ」

そう教えてあげると、
「え? これですか? これ、オニカサゴじゃないんですか?」
と言う。

見分けがつかないほど似ている、というわけではないけれど、間違えることはあるよな、と思いながら、オニカサゴの画像を見せて、「ほら、これがオニカサゴだよ」と説明したのだけど、いまいち腑に落ちていない様子で、キツネにつままれたような顔をしている。

結局のところ、S君は「釣り人」だった。
釣りの世界では、イズカサゴのことをオニカサゴと呼ぶらしい。

  

ネットで「オニカサゴ」と検索すると、「美味しい」「高級」「いかつい顔」といった言葉が並ぶ。
開いてみると、そのほとんどがイズカサゴを扱ったサイトで、オニカサゴが出てくるのは、ウェブ図鑑系のサイトくらいしかない。

さらには、「オニカサゴは実はイズカサゴだった」という題名まで出てくる。
オニカサゴの調理法を紹介するサイトも、オニカサゴと言い切ったまま、登場するのはイズカサゴだ。

思った以上に広範囲で、迷いなく「イズカサゴ=オニカサゴ」という認識が使われている。

S君は間違ってはいなかった。 

 

そもそも「標準和名」というものは、明治以降の近代になって整理され始めたものだ。
ネット通販もクール便もなかった時代、いつも取引のあるコミュニティの中で通じていれば、名前の問題はなかったのだろう。

実物と図鑑をにらめっこするほうが、むしろ少し特殊なのかもしれないし、
「ところ変われば……」で、地域ごとに名前や価値が変わっているほうが、面白い気もする。まぁ、最終的には、学名で区別すれば被ることはないし。

 

江戸時代に書かれた『魚鑑』には「かさご」の項があり、
「俗に、あんぽんたんと言う」
とある。

カサゴのことをアンポンタンと呼ぶ地域は、今もあるのだろうか。
「アンポンタン大量発生」
「アンポンタンの煮付け」
なんて書いてあったら、ちょっとかわいらしい。


2026年1月26日月曜日

『アオリイカ・交接の瞬間|水中映像(伊豆)』



アオリイカの交接

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【アオリイカ交接の詳細情報・サンプル動画はこちら】
アオリイカの交接・詳細ページ

交接の瞬間を映像に捉えるのは、なかなか難しい。
産卵のように、一点集中で「ここ!」というのではなく、どのタイミングで、どこでするかはわからない。とはいえ、遠く離れた場所なのではなく、産卵する場所のすぐ周辺ではある。

「ちょっと産卵小休止」的なペアを見ていると、サッっと交接するのが見られる、時間にして、わずか1秒か2秒ほどの早業だ。
第1腕をVの字に開いて震わせて「交接しますよ」みたいな合図を送るオスもいるけど、その合図も1秒か2秒。
合図をせずに急接近して交接する場合もあり、というかVの字が合図かどうかもわからないけど、まぁ、いずれにしろ交接は瞬間だ。

産卵シーンに出会いたいダイバーにとって、何ペアいるのか数えられないくらいの猛烈産卵モードは「大当たり」なのだけど、交接を撮影しようとなるとカオスだ。
カメラを向けていないペアが交接したのが目に入り、「そっちかぁ」と思って気を抜くと、今度はカメラを向けてた方が交接。となることもあり、結局うまくいかないことが多い。
贅沢なことではるけど、2ペアくらいの産卵がうまくいく感じだ。
けど、沢山いると、それはそれで嬉しい…



2026年1月21日水曜日

『アオリイカ・産卵のペアダンス|水中映像(伊豆)』



アオリイカの産卵
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【粗朶漁礁・アオリイカの産卵の詳細情報とサンプル動画はこちら】

https://www.azarasi.jp/details/aoriika-sanran.html

海中で見るアオリイカの産卵というのは、それはそれは美しい。

瞬時に模様を変えることのできる体と魔法のように動く腕、波打つ半透明の鰭は…、もう芸術品だ。

それを、手を伸ばせば触れられるよな距離で見られるのだから、それだけでもダイバーになった甲斐があるというものだ。

 

アオリイカが産卵するのは、海藻の根元付近であったり、植物のように枝分かれしたソフトコーラルであったりするのだけど、大概、特に伊豆半島のダイバーが見るのは、水深10メートルから15メートルくらいの浅い海に設置された「粗朶(そだ)魚礁」という木の枝を束ねて海に沈めた天然素材の魚礁だ。


年によって増減はあるものの、アオリイカは粗朶漁礁に産卵にやって来る。
同じ場所に設置されるのを憶えているという訳ではない。なぜなら、彼らの寿命は1年で、産卵期を終えると死んでしまうからだ。
なので、「前に産卵したところ」を憶えているはずもない。

 

それでも彼らがやってくる"粗朶漁礁"というのは凄いものだなと思って色々調べてみると、結構大変なことになった。
1,000年以上前に編さんされた書物(の400年前の復刻版)のデジタルアーカイブで、楚とか朶とか罧とかの文字を探し、膨大なページをめくっていると、もはや海の生物のことを調べているとは思えなくなる。けど、「ほら、あったぞ!書いてある!!」となったときの掘り当てた感が楽しいのかも。
自分の仮説的なのは書かないようにしているのだけど、今回はせっかく調べたので載せてみた。読んで面白いと思ってくれる人がいるかどうかは疑問だけど、まぁ本編読んでみてやってください。


1,000年後に読む人がいるという本も凄いけど、昨年出版された「日本のイカ・タコ」(平凡社・土屋光太郎、阿部秀樹著)も凄い。噂には聞いていた3タイプのアオリイカもちゃんと載っていて、「あぁなるほど、そういうことだったのか」と、思うところが多い。
何より、人づてに聞いた噂話。から、ちゃんと図鑑に載っている本当の話。として格上げされるので安心感がある。 

また、カンテンダコのページに自分の写真が載っているのが凄い。それも撮影者の名前付きで!
図鑑に載る写真を撮る人は、いったいどんな人なのだろうと思っていたけど、自分が加わるとは思ってもみなかった。

写真を図鑑に使うと言われてから17年も過ぎての出版に感心しきりだったけど、1,000年前の書物も読めるし、なんかこう「本」というものは時間の流れが違うのかな。と思ったりする。

2026年1月17日土曜日

『嘘をつく幼魚・ミナミハタタテダイ|水中映像(伊豆)』

ミナミハタタテダイ水中映像
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さすがに、この魚を見た時は、はっ!と思った。
小さいながらも三角形の体つきで尖った黄色い口、そして鮮やかなナナメ縞模様は、伊豆半島の海藻の茂る海底では不釣り合いに目立ってた。「おお、これは普通見かけない奴だぞ」と、即座に直感するフォルムだ。

人間のダイバーには、目立つ縞模様は、動物の世界では分断色と呼ばれ、体の輪郭を不鮮明にする効果があるという。魚の眼は人間の様なフルカラーでは無いからだろうなと思って調べてみると、どうもそう単純なものではないらしい。
チョウチョウウオ科の場合、視覚は白黒ではないらしい。黄色や白のコントラストが強く見えて、赤はほとんど見えてないのだとか。確かに、チョウチョウウオ科は赤系よりも黄色が多いのはそのせいか。仲間同士を確認するための配色ではあるのかな。

このあたりでNo1の肉食魚と言えばヒラメだろうと思ってヒラメを調べると、青や緑に特化した視覚であるらしい。薄暗い海底は赤という色が黒ずんで赤ではなくなるので、赤を見るための能力を削って、その分を青と緑に注いでいるということだ。そして、動いているものにとにかく反応するというハンターらしい。
試しに、簡単ではあるけどミナミハタタテダイの画像を青緑にしてみると…
 

 
確かに、魚だか何だかよくわからない。縞模様は輪郭を繋がないような効果があるようだ。しかも、尻ビレの眼状紋はしっかり見えていて、まるで頭のように見えるので、万が一喰いつかれてもお尻のヒレの欠損で済むかもしれない。これでヒラヒラと舞い踊らなければ、ハンターヒラメも反応しないだろう。
もしかして、上昇することなく海底スレスレを泳いでいたのは、防衛の為なのかもしれない。

と、今になれば、もっとじっくり観察すればよかったと思うのだけど、別の用事をかかえて潜水していたもので、これくらいのカットしかない。しかも、2019年のこの一度きりで、その前も後も出会っていない。
本当に海の中は一期一会だと感じさせる魚でもある。

2026年1月10日土曜日

『空気のような魚・オオスジイシモチ|水中映像(伊豆)』



オオスジイシモチ水中映像
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「空気のような存在」という言い回しがある。
いてもいなくてもあまり変わらない、あるいは、まわりに溶け込んで特に目立たない、という意味で使われることが多いが、伊豆半島でのオオスジイシモチは、まさに空気のような存在かもしれない。
 
満天の星空のように群れることもなく、昼間は岩の隙間で、外の気配をうかがうようにしている。夜になると出てくるものの、遠くへは行かず、庭先のような近場で仲間が集まり、「今日はどうだった?」とでもいうような井戸端会議をしているようだ。
「空気のような存在」は、悪い意味で使われがちだが、24時間365日、捕食者の攻撃にさらされている生物にとっては、実に素晴らしいことだ。
 
オオスジイシモチの茶色の濃淡からなる縞模様には、自分の体の輪郭をぼかす効果があるとされ、捕食者に「魚ではない何か」と錯覚させるそうだ。そのうえ、縞模様が眼球にも通ることで目を隠し、急所である頭の位置を分かりにくくしている。
なんだかよく見えない物体のうえに、急所がどこなのかもよく分からない。最新鋭の“ステルス魚”といったところか。
 
さらにもう一つ、尾の付け根にある黒い点は、目を演出するためのもので、ステルス効果をかいくぐって攻撃してきた捕食者に、頭だと思わせて尾に噛みつかせるための「オトリの目」である。巧妙な仕掛けは何重にもある。
しかも繁殖は、テンジクダイ科お得意の「口内保育」。メスが産んだ卵をオスが口の中に入れ、孵化するまで、ほぼ絶食状態で守り続ける。オスに我慢は強いられるが、卵の段階で誰かに食べられてしまう心配はなく、省エネで高効率な繁殖戦略といえる。
 
オオスジイシモチの場合は、さまざまな戦略を重ねた末に、「空気のような存在」にまで “到達” した生物なんじゃないかな。最高の誉め言葉のつもりだけど、海の中に空気は無いな…