2022年9月19日月曜日

テンジクダツを食べてみた



昼過ぎに鮮魚店を覗いてみると、尖った魚が一尾飛び出てた。「ダツ¥740円」とある。ダツ。あのダツ? とよく見るとダツ特有の鋭いくちばしの先に何かついてる。いや、これは顎の一部だぞ? 顔つきからしてもダツじゃないだろう?オキザヨリとか、その辺じゃないのかな?と思い、値段も付いてる売り物だし、お買い上げ。(若干店頭客寄せ的な雰囲気はしたけど、買っちゃった)

全長80センチ近い巨体、というか長体。まな板には乗らない。ちなみに重さは950グラム




下あごの先端下部に旗のような状態でとても硬い突起がある。歯は細かくて鋭く、捕らえた獲物は逃げられないだろうな。口が開いてなくても手に引っ掛かるので要注意。

保下あごの突起がきっかけで テンジクダツらしきことが判明。尾の付け根のやや下の位置に水平安定板的な突起があるのでテンジクダツということにする。


内臓は思ったよりも小さく得をした気分。と、思いきや浮袋?なんだこれ?
梱包材のプチプチ、中身の出ちゃった筋子みたいな空洞物体が結構大きい。


まずはお刺身。皮引くの面倒だし皮つきが好きなので皮ありで。
味は・・・
限りなくトビウオ。トビウオですって言われてもわかんないかも(自分は)

トビウオもダツ目トビウオ科なんですね。すっごい納得した刺身の味。
メダカもダツ目だ、美味しいのかな?




煮物。
めっちゃうまい上品な味でいくらでも食べられそう。ご飯が進むというよりは酒の肴かな?




焼きものはそのままだと淡泊すぎてノーインパクトだったので、ちょっとピリ辛のトマトソースをトッピングして最高です。

オキザヨリは浅瀬でよく見る魚だけど、テンジクダツと並んで美味しいそうです。
また水中で「美味しそうだな~」と思う魚が増えた(笑)



2022年5月26日木曜日

たかがブダイ、されどブダイ

ブダイは伊豆半島ならごく普通に見られる魚だ。普通過ぎてダイバーは話題にもしないが、見かけるときは大概の場合1固体、2個体とか。周辺に複数個体いたとしても、統率のある群れ行動をしているようには見えない。ただ、春先に15センチ程度の若いブダイが5~10個体で群れていて、ダイバーを避ける動作がまさに「群れ」ぽいということはあるので、若いころは群れてるのかな?とは思ってた。

と、あるとき成熟しているであろうブダイの大群に出会った。


これは4月末。水温18度で、沖合に面した岩礁斜面の入口だ。
クロホシイシモチの大群の向こうに、大きな体の魚が名が群れているので「なんだろう?」と目を凝らしてみるとブダイだった。
固体の大きさは25センチ前後だろうか、帯のように斜面沿いを移動しているのだが、何か目的があるかのように真っ直ぐに移動している。 
 この斜面では夏になるとイシガキダイが群れになって移動するのが見られる。多い時には50を超える玉のような群れになるのだけど、イシガキダイの場合は寄り道派だ。一回ダイバーを見に来て、「あぁ、ダイバーですね」という感じでUターン。あっちに寄ったり、こっちに寄ったり、岩陰に入ってみたりと自由な行動をする。
このブダイの群れの場合は、まるで軍隊の移動のようで、何も寄り道無し、一定スピード、列の乱れも無し。
いったいどこへ行くのだろうかと追いかけたけど、ダイバーの空気には限界があり、元の場所へ戻らないといけない。この群れは果てまで行きそうな気配だったので諦めた。

南国のカンムリブダイなどは群れ行動が有名だけど、「ザ・ブダイ」がここまで群れるというのは初めて見たし、聞いたこともない。手持ちの資料にもそんな記述は無く、ネットの検索でも当たらない。
産卵期は夏が中心で、ベラ科特有の雌の放卵と雄の放精が花火が打ちあがるように急上昇して行われるパターン。移動は関係ないように思えるけど、産卵を控えた成熟メスを誘いまくって囲い込み、程よい場所に連れて行こうとでもしてるのだろうか?

たかがブダイ、されどブダイ か?

海は広いな・・・

2022年5月15日日曜日

江戸を支えたボラの群れ

ボラ。というとどんあイメージだろうか。海に近い川、それもコンクリートで固められた小さな溝のような川に異様なほどの群れで現れ「大量の魚が川で群れています」などという報道を思い浮かべるくらいで、ほとんどの人が口にしたことは無いと思う。でもなぜか「泥臭い魚」としてとても有名。都会の小さな川で群れ、ギョロっとして大きな目とムフっとした口、大きな鱗で丸長い魚体は、お世辞にも美味しそう!と思う見た目ではない。思うけど、実際のところはそんな不味い魚ではない、というかとても美味しい魚だ。



伊東の鮮魚店ではたまに見かける。全長40センチ程度のボラは、夫婦二人だと夕食には持て余す大きさ。それが200円くらいなのでおコストパフォーマンスは抜群だ。けど、ヌメリもあるし、硬くて大きい鱗を取ったりするのはちょと大変。近所の古いお宅(古くなくてもだけど)には家の外にシンクがあることが多いのだけど、うん、理由がわかる・・・
この辺では沖ボラと呼ぶみたいだけど、寒ボラという用語もあるみたいで、寒ボラで検索をかけると、もはや高級食材扱いである。ボラの卵は3代珍味のひとつ「からすみ」の元なので、卵を持ったメスが超高級魚なのはわかるのだけど・・・

 江戸時代、ボラはとてもメジャーな魚だったようで、実はブリのように出世魚だ。10センチくらいまでをオボコ、その上の15センチくらいまでをスバシリ、30センチくらいまでがイナ、50センチまでをボラ、それ以上がトド。となる。
ことわざというか、言い回し的な言葉にもボラは結構あって、かわいい子供のことを「オボコだねぇ」というし、「とどの詰まり」はそれ以上は無い、最終的に。という意味に使う。出世魚の活用だ。「粋でイナセな」のイナセはイナの背であって、魚河岸のヤンチャな若い衆に流行っていたちょん髷のスタイルだそうで、現代でいえばテカテカのリーゼントな方を、ロックだ、という表現にでもなるだろうか。あぁ、でも「イナ」の時点で「青年」的な意味合いがあるとするとオジサンロッカーには使えない(または誉め言葉になるか)。

 そんな風に日本語に定着するほど一般的だったボラは、スノーケリングするような浅瀬でウロウロ泳いでいるような魚だ。だから江戸の時代からメジャーなのかというとそうではなく、江戸の食糧事情と将軍様の育ちが関係しえいるようだ。
 ボラは春と秋に物凄い群れになる。ダイバーの間では、バラクーダという南国のカマスの群れにあやかって「ボラクーダ」と呼んでいるものだ。ボラクーダは比較的浅瀬を泳ぐ、特に深場への斜面から一桁メートルの浅瀬になるようなエッジのあたりで遭遇することが多く陸からでもわかるほどで、海面がバシャバシャと異様に波立っているとボラクーダの可能性が高い。
江戸時代には、このボラの群れを見張る小屋が海岸に設置されていて、群れを見つけると太鼓やらで村に合図し、気づいた村人がフォーメーションを組んで複数の船を緊急出動し、ボラの群れを浅瀬に追い込んで一網打尽にしたらしい。伊東市富戸の港の外れには「ボラの魚見小屋」という小屋の再現があるし、ボラ納屋という小屋も保存(というか食堂になっている)されているくらい、ボラの一網打尽は歴史に残されている。
 一網打尽にされたボラは「押送船」(おしょくりぶね)という高速船で江戸へと運ばれて庶民の口に入る。ちなみに、有名な葛飾北斎の神奈川沖浪裏にある細長い船が押送船とのことだ。

このシステムを考えたのは、あの暴れん坊将軍、徳川吉宗だったらしい。元々は田舎の村であり、魚類を含む食料の大量供給が江戸では難しかったところ、紀伊で盛んだったボラ漁を紀伊徳川家だった吉宗が「伊豆辺りでボラ獲って江戸に運ばせればいいじゃん?」的に言ったとか言わないとか。爆発的に人口が膨れ上がった「巨大都市江戸」の庶民の胃袋を支えた重要食材に、伊豆のボラがあったと言ってもいい、かもしれない。

そう思いながら伊豆の水中でボラクーダに遭遇すると、余韻が長くなって面白い(笑)

2022年5月3日火曜日

マナマコの放精と放卵に出会ってあらためて思う


ナマコという動物は動きらしきものが見られない。ただただ海底にいるだけの雰囲気がある。実際は触手を使って海底の何かしらを体内に取り込み、栄養を吸収して糞をしているのだけど、動きがゆっくりなもので物体扱いされがちだ。

 

栄養と言っても、海中に漂う魚の糞だったり腐った海藻や何かの粘液であったり、デトリタスと呼ばれる有機物だ。食べ方は色々で、触手を広げて漂うデトリタスをキャッチしたり、岩の上や砂に降り注いだものを食べる。選んで口に運ぶ訳ではなく、目の前にある砂なら砂ごと取り込む。 一心不乱に食べて、有機物を摂取した後の物を糞として出すわけだから。ナマコの糞というのは食べる前よりも浄化されたものが出ていることになる。

「ナマコが世界を救っている」という人もいるくらいだけど、世界中のナマコが一斉にデトリタスの接種をやめてしまうと、海の世界は変わるのかもしれない…

しかもだ、ナマコには脳が無い。心臓も無い。あろうことか、敵に襲われると内臓を全放出して差し出して満足させるという荒技を繰り出す者もいるのだが、放出した内臓は再生される。脳が無いわけだから「仕方がねぇな、内臓でも食っとけよ」みたいな思考は無く、システムになっているのだろうが、それがさらにミステリアスな雰囲気を醸し出す。

生殖行動はナマコのミステリアスが爆発する瞬間だ。
動きが無さ過ぎて物体扱いだったナマコが、激しく動き、首を持ち上げ、精子や卵を海中に放出する。それも辺り一帯のナマコが一斉に。


ヘビなどが頭を上げるさまを「鎌首をもたげる」というが、そそり立つという言葉の方が合うかもしれない。

2022年は3月29日の午後に放卵と放精が見られた。年に数回の放精抱卵があるようだけど、そのうちの1回だ。人間が海の中に潜っていられるのは限られた時間だし、海は広いので見られるのは貴重な機会だ。


 
この時見られたメスの放卵は1固体。その周辺で複数のオスのマナマコが放精していた。圧倒的にメスの割合が少なく。放精を確認して周囲を探索しても、メスの放卵個体を見つけられないということがほとんどだ。とにかくメスの放卵に出会うのは貴重。
メスがそそり立って放卵するのに比べると、オスの放精はそそり立ち度がイマイチ。どうもこれはホルモンの関係らしい。ナマコを研究する知人曰く「水槽内で人為的に放精抱卵を促すとビンビンにそそり立って首を振る」という。なので誘発ホルモンの関係だろう。目も鼻も、脳さえもないナマコが一斉に散乱するのはホルモンの刺激なんだね。
この時のオスにはやや弱かったかもしれないホルモンを「クビフリン」というらしい。
首振りン。世界共通ホルモン名なのかな?

ただ海底にいるだけのように見えるナマコは、実は素晴らしい生存システムで何千万年も生活している。高度な文明や文化は。ありすぎると余計なものなのかもしれないな・・・

 

2022年3月10日木曜日

水中を360度見られるカメラを作る③


新生EYE-BALL。と言っても、もはやオリジナルの部品はドームと衝突防止ガードの2点のみになってしまったが、360度のカメラを搭載して蘇ることができた。
このカメラは、ドーム内が空洞なので浮力が大きい。内部のカメラを重厚でサーボに囲まれていた旧式から、スマートで軽量な360度カメラに変えてしまったし、新規部品が金属から樹脂に変わったこともあって、浮力は増えている。そのままだと浮いてしまうので、ガードの下にウエイトを繋げて水中に沈めることになる。ま、ウエイトを装着して沈めるのはオリジナルも同じで、専用のウエイトが用意されているのだけど、足りるのかな??。
どれくらいのウエイトを付ければ沈むのか、ということで、ウエイトの適正を水槽でテストする際に水密のチェックを行った。ダイブウェイズ社で製作した新しいパーツは見事に問題なく水密を一発クリアした。本来であれば圧力をかけた状態の耐圧検査をするところだが、そんな機材はあるはずもなく、目の前に膨大な圧力のある「海」があるので最終テストは海で行う。最悪水が漏れても、溜まっていく様子がカメラで見えるだろうから漏れてきたら上げればいいか、的な・・・


映像は第1回目ではないが、沼津の淡島にてのテストの様子。もちろん水漏れは一切ない。
ROV(水中ドローン)と違い、全方向が写っているので「何かを見る」という感じがしない。ある方向を向いたカメラの場合は、方向を変えたり進んでみたりと、いろいろと操作するものだが、全方向の場合は、その場で留まってじっくりと見回す感じだ。
ただ、実際に潜航させているときは移動の欲求がモリモリと出てくる。もちょっと上げて、とか下げて、とか。その割に後から映像を見る段階になると、もっと留まって欲しいという欲求が出てくる。映像を見直すうちに「あれ?これはなんだろう」というような状況になり「あー移動してしまった」となることが多々あるのだ。
普通のカメラとは全く別物として扱わないと効果の出ないのが360度カメラのようで、要研究ですな。

2022年3月6日日曜日

水中を360度見られるカメラを作る②

当時RICOHからRという業者向けの360度カメラが発売するところだった。360度カメラとして一般あ販売していたシータのシリーズで、Rは「ライブ配信に特化している」というのが売りだった。外部からの電源入力、HDMI出力があるのでRで検討することにした。
水中では電波は通じないのでwi-fiでの出力なんてなんの意味もない。火星に着陸した探査機の映像をライブで見る様な時代に、水中は相変わらずケーブル引き回しの刑なのであある。ので、有線出力がないと100%NG。かと言ってHDMIから出た信号はほんの数メートルしか伸ばせないので、SDIなどの信号に変換して同軸ケーブルで100mほどとなるようしないといけない。水深100mへの到達には、潮の流れで垂直では下ろせないことがほとんどであるし、船の上でも数mの余裕を考えないといけないので、せめて150mは欲しいところだが、まずは100mで実行する。

オリジナルのEYE-BALL上部

ドームハウジング内部でカメラから出た信号をSDIに変換し、外部に出さないといけないが、照明やサーボの動作を含めた複合ケーブルを使っていたオリジナルとはケーブルの径がかなり違うので使えそうもない。
なので、上部の蓋部分はオリジナルで製作することにする。お世話になっている株式会社ダイブウェイズにコンセプトとアイデアの絵を説明して設計してもらい、材料を選択してもらい、加工してもらう。ダイブウェイズ社は葛飾区東立石の町工場が溢れる場所にある、まさに下町ロケットの世界。潜水用のレギュレターや水中機器のハウジングで有名だが、長年お世話になってもいたので完成品への不安は一切ない。依頼した時点で、すでに完成した様な気になる。


ドーム上部の白い部分が新しいパーツ

製作にはそれなりの期間がかかったけど、当たり前だが設計図通りに品物は仕上がって来た。
新しいパーツに、今まで使ってきた、これまたダイブウェイズ社製の水密コネクターを取り付け、水中コネクターも取り付け、カメラと変換器を取り付け、映像と電源ケーブルを繋げる。
そうなる様に設計してあるので、パーツ完成後の作業は早い。
さて、スイッチオン。

内部の360度カメラ



映るね。映ります。
RICOH Rの良い点は外部からの電源オンでカメラに触ることなく起動するところ。カメラがドームハウジングの中に入ったままでオンオフできるというのは水中機器には絶対条件に近い。これが、電源ボタンを押さないといけないとなると、何かのトラブルで水中で電源が切れた場合、一回陸上に上げてから電源を入れ直し、ハウジングを開けてスイッチオン・・・などと、劇的に面倒になる。このRの場合はもはや入れっぱなし。整備以外で開けて出すことはないということになる。(他のがどうかは知らないけど)

さて、錆びた水が溜まっていたEYE-BALLは360度カメラとして復活に成功。とは言うものの、オリジナルの部品はドームと衝突防止のガードしかない…

さて、これで水中でのテストになります。

2021年6月12日土曜日

水中を360度見られるカメラを作る①

就職したのは1990年だか91年だかの20歳の時だった。縁あって水中環境調査とか水中映像撮影とか機器の販売の会社に就職した。今思えば笑えるくらいのアナログの機材に囲まれていたと思うのだけど、当時は最新鋭であり、笑えない値段の機材ばかりだった。カメラとレンズで1000万、防水ケースで1000万、重量50キロの大砲のようなカメラを普通に扱う仕事だったけど、今の時代に同じスペックのカメラを買おうとすれば5000円程度。さすがにギャップが激しすぎて恐ろしい。そんな時代から少々進んだ2016年に出会いがあった。

勤めていたを辞めて独立し、しばらくたった2016年「調査の会社の倉庫を整理するから色々引き取れ」と連絡があって向かう。訳あって社員のいなくなった倉庫は寂しく見えた。膨大にある様々な水中道具を使うものと使わないものに仕分けしていると、奥の方から、まるで捨てられたようなEYE-BALLがあるのを見た。箱から出してみると、水没して入った海水をそのままにしていたのだろう、錆びて茶色く濁った水が入った状態のまま放置してある。
EYE-BALLは日立造船が作った水中観測用のカメラで、アクリルドームの中でカメラヘッドがサーボで動く台に装着され、海上でジョイスティックを操作すると見たい方向が見られるというカメラだ。2021年の今では街角の防犯カメラでさえ普通のことだが、当時は海中で行えることが最新鋭だった。そんな機材も20年以上経つと、こうもなるのかという悲惨な状態だった。

【日造テックのHP】

中に錆びた水が溜まっているのだから、水中カメラとしては瀕死でもなく、脳死でもなく、完全に死亡している状態だったのだけど、最新だと思って扱っていた機材のなれの果てを見ると処分を認める訳にはいかず、そのまま引き取った。外側のドームは激しい環境で傷だらけではあるものの亀裂は入っていなかった、内部のカメラ機材は使わないとしても何かに使えるのではないかと、なんとなく思っていたようで、あてなく引き取る。
ちょうどその頃「360度カメラ」というワードが出てきて「?」と思う。「え?全部映るの?ならさ、このEYE-BALLに360度カメラを入れたら海の中が全て映るんじゃん?」
しかも
「VRで見たら自分がドームの中に入って潜ってる感じになるってこと?」と思い、擬似的にアクリルドームの中に入って潜る世界を想像して色々と考え始めることになるが、アナログ人間には結構な険しい道のりだったりする・・・